プロフィール

小嶋 智, MRO(J)

Mobility経営
1969年生まれ 東京都出身
ジャパン・カレッジ・オブ・オステオパシー2期卒
日本オステオパシー学会会長 ジャパン・オステオパシック・サプライ代表取締役
筋肉エネルギーテクニック・直説法/軟部組織・スポーツ領域 講師
https://mobilityoste.co/wp/

ミッチェル筋肉エネルギーは詳細な解剖学と診断から成り立っています。
とにかく解剖学・生理学の理解と関節運動学の理解を求められる。
そして感覚的ではなく視覚を重要視している。なぜなら脳への視覚の情報はかなりの情報である為と、動的な運動中の関節の情報は、筋肉の影響が絡んで来るので感覚的に誤診の可能性があり嫌っています。
動作後の位置情報をしっかりと視覚で見ることが要求される。
なので見る事一つでも、効き目がセンターに配置されること、クライアントとデカルト座標(ベットなどの縦横のライン)の関係性を合わせること、見たい高さの違いを見るられる方向性から見ることなど細かい指定があります。
オステオパシーは感覚的でしょ?と思われる傾向があるのですが、それを怒涛の如く覆すのがミッチェル筋肉エネルギーテクニックだと思います(笑)

2月12日にミッチェル筋肉エネルギーの肋骨1番をターゲットにした、評価とアプローチのオステオパシー入門セミナーを行うので、今日はこの肋骨1番の評価とアプローチについて紹介したいと思います。

肋骨1番は胸郭入り口を形成する循環にはとても重要な部分でもある。
胸郭入口:胸骨柄、第1肋骨とその肋軟骨、第1胸椎の椎体で 囲まれた骨の輪である。
胸郭出口この場合の「出口」はそこを通る動脈の血流の方向を指している

仰臥位では、生命を維持するのに、肺の内外で1分あたりにわずか600ccの空気が呼吸で動けばよく、そうしている間に、身体の全ての静脈血とリンパを心臓へとポンプで送り戻さなければならない。
その必須活動は胸郭入口の形状のわずかな変化によって深刻に損なわれる可能性がある。とミッチェルは語っています。なのでこの肋骨1番のわずかな変位が循環や呼吸に大きな影響を与える重要な部分でもあるのです。

第1肋骨は頭痛などにも影響を与える事が多く、ジョーンズストレイン/カウンターストレインでもこの第1肋骨へのアプローチは、PR1→肩甲舌骨筋→PC3とコンビネーションで連続して取り、最後はスティルテクニックのように可動化させながら戻すのがゲーリングD.O.から教わっていて、JOA/JCOの教育では当たり前のアプローチになっています。
これだけの連続したアプローチを行う必要がある部分でもあるってことです。
PR1は従来のタイプではなく、ゲーリングD.O.のオリジナルなポジションだからこその連続で、このテクニックを習っている方なら、斜角筋の関係性も理解でき、何故3つ連携して取っているのかイメージできることでしょう。
そしてそれだけこのポイントは修正しにくいところであり、再発もしやすい部位であることも予測がつきます。

ミッチェルは肋骨1番の病変をこのように分類している
第1肋骨サブラクセーション(損傷を伴わない変位でSDとは別物)
•上方肋横突
•前方肋椎
•後方肋椎

•アングル異常(書籍にはのっていない)

肋骨1番に関しては筋肉エネルギーマニュアル第2巻の6章に詳しく紹介されている。
https://shop.osteopathic.jp/item/itemreco/mmet2/

肋骨1番の変位をこれだけ詳細に分類してあるオステオパシーのテクニックや書籍は見たことがないです。
カイ・ミッチェル先生と話していた時、何故いろんなD.O.のところにかかっていた患者が良くならなくて我々のところに来て改善するのだと思う?と質問されたことがある。
その答えはこの診断の緻密さにあるんだと話していた、ミッチェルMETを知れば知るほどその通りだと思えてくる。
ミッチェルは変位した肋骨は、変位方向には過剰に動きやすくなっているので、その肋骨をHVLAを使って戻しては絶対ダメだと語っている。たとえその時は元のポジションに戻ったとしても、過剰に動いていた関節に更に刺激を加えることになるので、結果的により不安定になってしまうと。
う~んなるほど!
私自身直説法を教える立場にあるのですが、正直近年ではこの事が頭に残っていて肋骨へのHVLAをほとんど使わなくなってしまいました。

肋骨1番の上方サブラクセーションを慢性的に継続させるのは、斜角筋の呼吸機能障害による吸気での収縮も大きな要素でもあります。呼吸機能障害があるのなら、呼吸を使いながら修正しないとこの斜角筋が一日2万回近く吸気で収縮し続けてしまい、たとえ肋骨1番の位置を修正したとしても再発することは予測がつきます。

サブラクセーションの分類に加えて斜角筋の呼吸機能障害が加わり、さらに胸椎1番のSDからくる脊椎由来の問題との鑑別も必要になるために、屈曲位や伸展位での呼吸での肋骨の動きも検査しなくてはならない。となるととても複雑で覚えるのが大変ではあります。すべて理解した上で取り組まないと迷子になりそうです。
しかし実際人間は複雑なんだと思われます。それが術者の都合で単純化してるのでしょう。
筋肉エネルギーマニュアルの書籍のどこかに単純化する弊害についても書いてあった気がします。

筋肉エネルギーマニュアルを翻訳してくれたPTの方のエピソードを紹介します。
「ちょうど肋骨1番に関する章を訳している時に、ある若い女性患者を担当したんです。その人は半年間大学病院を月1で受診したのですが、結局診断が付けられないので受診を拒否されちゃったのです。
それで、たまたま僕の勤め先に来院して、当時は僕がそういう訳のわからない患者担当だったので、僕が担当したわけです。
でも、僕が初めて評価したときに、右斜角筋のところに明確な圧痛があって、そこを押すと右腕の力が全然入らなくなってしまい右腕がダランとなってしまうほどの圧痛だったので、胸郭出口症候群の診断くらいは容易に付けられたのではないかと思いました。
それで、Mitchellが書いてあるように第1肋骨を評価したら、上方に変位していたので、それを治療してみたら、次に来た時にはもう治っていたんです。このときは、翻訳していて本当に良かったなあと思いました。」
なんてエピソードを教えてくれました。

解剖学・生理学・関節運動学とかなりの知識を要求されるのですが、しっかり理解するとこれほど使える技術はないのではないかと思います。単純化したテクニックの限界を補ってくれるテクニックでもあり、病変の解剖学や関節運動学はその他のテクニックの考え方のベースにもなります。もちろんランドマークを使った位置的な検査も他のテクニックにも使えることでしょう。

興味のある方は第4回入門オステオパシーセミナーに参加してみるとその詳細さが分かると思います。

https://osteopathic.jp/2022/12/19/8973/